D2の森田瑞基さんが「がん細胞の血管外遊出を細胞レベルで解析するための鳥類胚血管モデル」を発表しました(論文投稿)

概要

―がん細胞はどのように広がるのか?転移研究を進化させる鳥類胚モデルの可能性―

がんが全身に広がる「転移」という現象の中でも、血流に乗って遠くの臓器にたどり着く“血行性転移”は、がんの進行や命に関わる大きな要因です。なかでも、がん細胞が血管の外に出ていく「血管外遊出(extravasation)」というステップは、転移を成立させるうえで極めて重要な場面とされています。しかし、この血管外遊出のしくみは、まだ多くが謎に包まれています。その理由のひとつは、がん細胞がどのタイミングで、どこから血管の外に出るのかが非常に予測しづらく、さらにその動きがわずかな時間で完了してしまうため、従来の方法では観察が難しかったことにあります。

そこで私たちは今回、鳥類胚の卵黄嚢血管(YSV: yolk sac vasculature)を用いた新しい研究モデルを確立しました。この血管は、哺乳類と同じく恒温で有羊膜類に属する鳥類の血管系であり、広がりが2次元的で全体を一目で見渡すことができるという特徴があります(図1)。さらに鳥類は卵生ですが、卵の外で胚を培養が可能であるため、生きたままの血管やその中を流れるがん細胞の様子をリアルタイムで観察することができます。また、がん細胞を血管内に移植する操作も簡単で、比較的短い時間で血管外遊出を開始するため非常に柔軟性の高い実験環境を提供してくれます。

このモデルを使うことで、がん細胞が血管の外に出る様子を細胞レベルで詳しく観察・定量することが可能になりました(図2)。本研究では、血管外遊出に関わる新たな細胞のふるまいや、その仕組みの一端を明らかにするとともに、今後の薬剤スクリーニングへの応用可能性も示しています。

がん転移のメカニズム解明はもちろん、転移を抑える治療法の開発にもつながると考えられ、今後さまざまな分野での応用が期待されます。

論文リンク:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012160625001332