鳥類PGCの血管外遊出と自身の硬さの関係についての論文を発表しました

 鳥類胚のPGCは血管内を移動路として使用し、最終目的地である生殖線までたどり着きます。血管内のPGCが生殖線まで移動するためには、どこかで血管から出る必要があります。それではPGCはどの血管から、どのような仕組みで血管外に抜けるのでしょうか?この仕組みは全くわかっていませんでした。この問題を解くためには、血管内のPGCが生きた胚の中でどのように動くのかを解析する必要がありました。

 我々は今回、生きたニワトリ胚の中でPGCを可視化(見える化)して詳細な細胞挙動解析(ビデオ解析)ができる系と、PGCへの遺伝子導入系(PGC培養法の整備と細胞移植)を新たに確立し、この問題にアプローチすることを可能にしました。この独自解析系を用いてPGCの血管内移動を観察していたところ、興味深いことに、血管の中を循環移動していたPGCは特定の毛細血管にて突如として停止することがわかりました。その際、多くのPGCは径の細い血管に「挟まる」形で停止しており、停止したのちには細胞の形を大きく変えて血管壁を抜けて血管の外へと移動することを見出しました。「PGCはどうして血管に挟まるのでしょう?」。この問題に対して我々は、PGCの動態観察をもとにして、「PGCが硬い細胞であるから、血管に挟まるのでは?」との仮説を立てました。この仮説は見事に当たり、原子間力顕微鏡にて実際にPGCの硬さを計測すると、とても硬い細胞であることがわかりました(赤血球と比較すると8倍程度硬かった)。次に、硬さの原因分子を探りました。血中を流れているPGCでは細胞表面を裏打ちする形で繊維状Actinが発達していることを見出し、この分子がPGCの硬さに必要であることも明らかにしました。Actinの重合を人為的に抑制されたPGCは、もはや細い血管に「挟まる」ことができず、結果として最終ゴールである生殖線まで到達できなくなります。

 この一連の解析から、PGCは自身の硬さを血管外へ移動するための足がかりとして利用していることがわかったわけです。それではがん細胞は、どうでしょう?がん細胞も同様に血管を利用して移動する(転移する)わけですが、血中循環中のがん細胞も硬いのでしょうか?興味が尽きません。本論文は2022年11月17日、iScience誌online版に掲載されました。プレスリリースはこちら(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004222019010)。