2020年度 第19回九州大学理学部生物学科公開講座

 本年の公開講座は斎藤教授と手島准教授にご登壇いただき、オープンキャンパスの企画としてオンラインで開催します。


講演内容


生命の連続性を支える生殖細胞の話 斎藤 大介(動物発生生物学研究室・教授) Daisuke Saito

斎藤大介教授講演概略図

生命誕生から35億年と言われますが、生命体は次世代を残すことで連続的に存続してきました。この連続性は生命体が獲得した大きな特徴の一つです。生命体が連続的に存在し続けることに意味や目的があるのかは私には測れませんが、生命の営みを眺めていますと生命体は連続性を保つことを至上命題として生活しているように感じます。

哲学的な問題は置いておいて、我々生物学者が解くべき問題は、生命の連続性を保つ仕組みとは何か?ということです。そしてこれが我々の研究室における学術的な興味となっております。

生命の連続性は次の世代を残すということ、すなわち「生殖」で達成されます。ゆえに生殖の仕組みの中に、生命の連続性の謎を解く鍵があります。有性生殖を行う生物は、次世代を作る唯一の材料となる「生殖細胞」と呼ばれる特殊な細胞を用いることで生殖を行い、連続性を達成しています。ですから有性生殖を行う生物にとってはこの細胞が生命の連続性を支える最重要細胞と言うわけです。生殖細胞以外の細胞を体細胞と呼びますが、体細胞は生殖細胞を守るために存在している、極端かもしれませんが、このように考えることも可能です。

生殖細胞は大事ですから、この細胞がなくなったり性質が変わったりしないように、個体の一生を通じて大切に維持される必要があります。例えば多くの動物の成体(大人)では、生殖腺(卵巣や精巣)が特殊な環境を提供することで生殖細胞をまるで“箱入り娘”のように大切に保護しています。一方で胎児の時期の生殖細胞が置かれる環境は我々にとっては腑に落ちません。そもそも胎児期にははじめ生殖腺がありませんから、生殖細胞はいわば“むきだし”で存在します。しかもそれらは胎児の体の外側にいて、のちに体内で形成される生殖腺まで長距離を移動することで定着します。“可愛い子には旅をさせろ”などと言いますが、生殖細胞にとってはあまりに放任・スパルタ教育な印象です。それでは生殖細胞はどうやって守られているのか?どのように移動するのか?なぜ体外にいるのか?胎児の生殖細胞に関する興味深い疑問は山のようにあります。

ここでは、生殖細胞とはなんぞやといった概説から始めまして、次に我々がこれまで研究を進めてきた、鳥類胚での生殖細胞の移動の仕組みについてお話をしたいと思います。鳥類の胚では生殖細胞はがん細胞のようになんと血管内を移動するというお話をします。



生物が進化する仕組み 手島 康介(進化遺伝学研究室・准教授) Kosuke Teshima

手島康介准教授講演概略図

今の地球上にはとても多くの種類の生き物がいます。かつては存在していたけれども、今はもういなくなった生き物もいます。なぜこのように多くの生物が存在しているのでしょうか、どのようにして多様な生物が生み出されてきたのでしょうか。よく知られているように、これらの多様な生き物は非常に長いタイムスケールで生み出されてきたものです。ここで、生き物の進化メカニズムについて考えてみましょう。人間ひとりの人生は、進化的タイムスケールで考えるとほんの一瞬の存在でしかありません。でもその一瞬の存在である我々が、生物の進化的変化というはるかに長い時間をかけて生じる現象を理解することが出来たならば、ちょっと嬉しくなるのではないでしょうか。

生命はその形も行動も、ゲノムという遺伝物質が持つ情報によって支配されていることはご存知でしょう。ゲノムは生命の設計図である、と表現されることもあります。設計図を共有しているからこそ、親子や兄弟姉妹が似ているのです。でもたとえ似ていたとしても、一人ひとりを見分けることは可能です。実は設計図と言いながらも、それぞれの個人が持つゲノムは微妙に異なっているのです。このゲノムに存在している微妙な違いを変異といいます。同じ種に属している個体であっても持っている変異の組み合わせには違いが存在するため、結果として個体差が生まれるのです。すなわち変異は多様性を生み出す原因の一つです。

このような変異が次の世代に伝わったなら、そしてさらに次の世代にも伝わったら…、そのうちにその変異を受け継いだ子孫の数が増えるかもしれません。変異が種内の全ての個体に広まって、その種の全個体が同じ新たな状態に置き換わってしまったら、その種の持つゲノムが変化したことを意味します。これこそが分子レベルの進化の小さな一歩です。ただしこの小さな変化は見た目や行動に変化を及ぼすとは限りません。通常は一つ一つの進化的変化がもたらす影響はほとんどないか、あってもとても小さいと考えられています。しかしこの小さな変化が非常に長い進化的なタイムスケールで蓄積し続けた結果、我々が目にすることのできる違いを生み出したのだと考えられています。

今回は、しばしば生命の設計図とも表現されるゲノムに変異が誕生し、その変異が伝達され、種内に広まり、種間の違いとして蓄積されるプロセスを見ていきます。そこから生物の過去・現在・未来を繋ぐ生物進化のメカニズムを考えます。




過去の公開講座

2013年(平成25年)第12回:川畑, 市川
2014年(平成26年)第13回:伊藤, 池ノ内
2015年(平成27年)第14回:射場, 寺本
2016年(平成28年)第15回:谷村, 佐竹
2017年(平成29年)第16回:矢原, 高橋
2018年(平成30年)第17回:舘田, 祢冝
2019年(令和元年)第18回:釣本, 粕谷

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