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2018

Nucleosomes around a mismatched base pair are excluded via an Msh2-dependent reaction with the aid of SNF2 family ATPase Smarcad1

ミスマッチ塩基対周辺のヌクレオソームは、SNF2ファミリーATPaseであるSmarcad1に補助されMsh2に依存する反応を介して排除される

Terui R, Nagao K, Kawasoe Y, Taki K, Higashi HL, Tanaka S, Nakagawa T, Obuse C, Masukata H, Takahashi TS.
照井利輝、長尾恒治、河添好孝、滝佳菜恵、東寅彦、田中誠司、中川拓郎、小布施力史、升方久夫、高橋達郎

Genes&Development, 32: 806-821

研究の背景

DNA複製の誤りが生じると、ミスマッチ修復に関わるタンパク質がDNA上に集まり、誤りを含むDNAを削り取って情報を修復します。ミスマッチ塩基はMsh2-Msh6複合体によって認識され、その後ヌクレアーゼを含む修復因子がミスマッチ塩基を除去して正しい塩基を再合成します。間違った塩基は必ず新生DNA鎖に存在するので、ミスマッチ修復には新生鎖の識別も必須です。
現在の知見では、これらの反応を行うためにはミスマッチ修復因子が数百塩基以上の広いDNA領域にアクセスする必要があると考えられています。
しかし、我々ヒトを含む真核生物では、染色体DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質に密に巻き取られています。ミスマッチ修復タンパク質が、ヒストンに巻き取られたDNAにどのようにアクセスしてDNAの情報を直すのかは、これまで大きな謎でした。

 

研究のアプローチ

ツメガエル卵の核質抽出液(Nucleoplasmic extract: NPE)は、外から加えたDNAを効率よくクロマチン化することができます。またNPEはミスマッチ修復も効率よく引き起こすことができます。つまり、NPEの中ではクロマチン化はミスマッチ修復と共存可能です。我々は、NPEの中でミスマッチ修復が起きる際の反応を解析すれば、ミスマッチ修復がクロマチン化したDNA上ではたらく仕組みを解き明かせるはずだと考えました。

わかったこと

驚いたことに、NPEの中ではミスマッチ塩基対の周囲でヌクレオソームが排除されていました。
この反応はミスマッチ修復に必須のMsh2(とMsh6)に依存して起きていました。
Msh2-Msh6の他にヌクレオソームの排除に関わる因子を探すため、反応中のDNAに結合した因子を質量分析によって同定したところ、クロマチンリモデリング因子(ヌクレオソームを動かす機能を持つ因子)であるSmarcad1や、ヒストンシャペロン(ヒストンとDNAの相互作用を助ける因子)であるFACTなどが見つかりました。NPEからSmarcad1やFACTを特異的抗体で除去してその機能を調べたところ、これらはミスマッチ塩基周辺のヌクレオソームの排除を助けており、またSmarcad1についてはツメガエル卵抽出液でクロマチン上のミスマッチ修復を補助することが分かりました。また変異体の解析から酵母においてもSmarcad1ホモログであるFun30がミスマッチ修復を促進することことが分かりました。これらの結果から、Smarcad1はミスマッチ塩基周辺でヌクレオソームを排除することでミスマッチ修復を補助していると考えられます。

2017

Human CTF18-RFC clamp-loader complexed with non-synthesising DNA polymerase ε efficiently loads the PCNA sliding clamp
ヒトCTF18-RFCクランプローダーはDNAポリメラーゼεと複合体を形成し、DNA合成停止時に複製クランプPCNAを効率よく装着する

Fujisawa R, Ohashi E, Hirota K, Tsurimoto T
藤澤遼、大橋英治、廣田耕志、釣本敏樹
Nucleic Acids Research, 45: 4550-4563

研究の背景

染色体DNAを複製するには、DNAを合成する酵素「DNAポリメラーゼ」に加え、ポリメラーゼをDNAにつなぎ止める因子「複製クランプ」など様々な因子が必要です。真核生物ではDNA複製を担う主たるDNAポリメラーゼとしてPol δとPol εの二つ、複製クランプとしてはPCNAが働きます。Pol δとPol εは、DNA二重鎖をほどいて生じる一本鎖のうち、それぞれ不連続に合成する側の鎖(ラギング鎖)と、連続合成を行う鎖(リーディング鎖)を担当します。複製クランプはPCNA一種しかないのですが、クランプをDNAに装着するクランプローダー複合体は面白いことに二種類あります。一つ目はRFCで、これはDNA複製に主要な役割を持ちます。もう一つはCTF18-RFCで、DNA複製、染色体安定維持、染色体の接着などに機能します。二つのクランプローダーはPCNAを装着する場所やタイミングによって使い分けられると思われますが、CTF18-RFCがどのような状況やタイミングでクランプローダーとして使われるのかはほとんど理解されていませんでした。

研究のアプローチ

CTF18-RFCの分子としての機能を知るためには、CTF18-RFCタンパク質を精製し、試験管の中で性質を調べるという手段(生化学的解析)が有用です。当研究室では過去にCTF18-RFCがPol εと結合することを見いだしており、これら両者が共に存在する場合に起こる反応を調べることで、CTF18-RFCの機能が分かるのではないかと考えました。

わかったこと

試験管内再構成実験から、CTF18-RFCはPol εが存在する場合に効率よくPCNA装着を行うことが分かりました。つまり、CTF18-RFCの活性はPol εによって促進されます。
またその逆にCTF18-RFCとPCNAはPol εによるDNA合成を促進しました。したがって、CTF18-RFCはPol εのパートナーとしてお互いに活性を促進しあい、おそらくPol εによるリーディング鎖複製に機能すると思われます。
CTF18-RFCとPol εがお互いの活性を促進することは一見辻褄が合っていますが、メカニズムを考えると不思議です。CTF18-RFCがPCNAを装着するためにはDNAの末端(3′末端)が必要ですが、この末端はPol εがDNA合成を行う場でもあります。そして、リーディング鎖には3′末端が一つしかありません。では、CTF18-RFCとPol εは一つしかない3′末端をどのように共有しているのでしょうか。Pol εのDNA合成状態を変える精密な実験から、Pol εがDNA合成状態にあるときはCTF18-RFCがPCNAを装着できないことが分かりました。このことは、Pol εが何らかの理由でDNA合成を停止した際に、CTF18-RFCがPCNAを装着することでPol εによるDNA合成を助けるというモデルを支持します。

2016

MutSα maintains the mismatch repair capability by inhibiting PCNA unloading

MutSαはPCNAの脱装着反応を阻害することでミスマッチ修復が可能な状態を維持する

Kawasoe Y, Tsurimoto T, Nakagawa T, Masukata H, Takahashi TS
河添好孝、釣本敏樹、中川拓郎、升方久夫、高橋達郎
eLife, 5: e15155

研究の背景

DNAを複製する過程では、オリジナルのDNAを鋳型としてそれに相補的な塩基が新しく合成されます。この過程で合成の誤りがあると、鋳型鎖の塩基と新生DNA鎖の塩基が合わない「ミスマッチ」という状態になります。ミスマッチを解消するには新生鎖側の塩基を鋳型鎖の塩基に合わせて修正するか、その逆かの二通りがありますが、正しい鋳型鎖側を誤って合成した新生鎖側に合わせてしまうと変異が生じます。ミスマッチを修正するDNA修復機構、「ミスマッチ修復システム」は新旧鎖を区別し、新生DNA鎖の塩基を修正して変異を防ぎます。
ミスマッチ修復システムは新生鎖の情報をどこから得ているのでしょうか。DNA合成を始めるには、まず複製クランプPCNAがDNAに装着され、次にPCNAを足場にDNAポリメラーゼなどが結合し、新しいDNA鎖が合成されます。PCNAには2つの面があり、一方の面は必ずDNA合成と同じ方向にあります。したがってPCNAは新生DNA鎖の情報を保持しており、実際にPCNAが新旧鎖識別の鍵となる因子である事が実験的に示されていました。しかし、PCNAの情報だけで新旧鎖の区別ができることの証明はなく、またPCNAはDNA合成が終わるとすぐDNAから外されてしまうため、PCNAの持つ新旧鎖の情報をミスマッチ修復が完了するまでどのように保持しているのかも謎でした。

研究のアプローチ

PCNAが新旧鎖の情報を持つのであれば、試験管内でDNAにPCNAを装着すると、装着の方向に応じてミスマッチ修復を起こすことができるはずです。ツメガエル卵抽出液はミスマッチ修復の活性を持つので、PCNA-DNA複合体を抽出液に加え、修復の方向性を調べることができます。また抽出液はPCNAをDNAから外す活性も持つため、PCNAを外す反応とミスマッチ修復反応がどのように拮抗しているかも解析できるはずです。

わかったこと

PCNAをDNAに装着した複合体を卵抽出液に加えると、PCNA結合方向性に依存してミスマッチ修復を起こすことができました。このことは、DNAに結合したPCNAは、ミスマッチ修復の方向性を決定するために必要かつ十分な情報を保持していることを示します。
では、修復の鍵となるPCNAの情報はどのように保持されているのでしょうか。DNAに装着されたPCNAは、周辺にミスマッチが無い場合には速やかに外されました。ところがDNA上にミスマッチ塩基が存在すると、PCNAの脱装着が非常に遅くなることが分かりました。PCNAの脱装着を制御しているのはミスマッチセンサーであるMsh2?Msh6複合体(MutSα)のMsh6サブユニットであることも分かりました。Msh6には長い腕のような部分があり、この部分でPCNAと相互作用し、PCNAの脱装着を抑制していました。さらに、この領域の存在に依存して、ミスマッチ修復が可能な時間が数倍以上に延長されることも分かりました。
PCNAは新生鎖の情報を「記憶する」分子と言えます。通常、この記憶は一過的で、PCNAはDNA合成が終わるとすみやかにDNAから外されます。ところがミスマッチ修復機構はPCNAの脱装着を阻害し、通常なら短期間しか保持されない鎖の記憶を、いわば「長期記憶」に変換する能力を持っていると考えられます。