生殖細胞とがん細胞には共通性がある?
先に、鳥類のPGCは血管を使って移動することを述べました。PGCは生殖三日月環と称される最も前側の胚体外組織から血管内に場所を移し、血流にのって体内まで循環移動したのち、予定生殖腺領域に近い腸間膜の血管から間充織側に遊出します。さて、血管を使って移動(転移)するって、どこかで聞いたことありませんか。そう、がん細胞です。がん細胞は原発巣近くの血管の内部に侵入し、血流にのって循環したのちに異なる血管から間葉に遊出します(がんの血行性転移と言います)。PGCの血行性移動の機構とがん細胞の血行性転移の機構を比較することでこれらの細胞の共通性が見出せるかもしれません。どちらの細胞も血行性移動ができることに加え、遺伝子発現(Cancer testis antigenなど)、細胞内代謝の様式にも共通点が見出されるので、案外この2つの細胞は似ているのかもしれません。研究を進めることで、「がん細胞が血行性転移できる能力の由来」など、考察できるかもしれません。
ここではもう一つ、がん細胞に絞った話をさせていただきます。がん細胞の血行性転移はがんという疾患を深刻ならしめている特徴です。この機構が細胞レベル・分子レベルで理解できればがんの克服にも貢献できるかもしれません。しかし、がん細胞の血行性転移は我々の体内の奥深くで起こっていることで到底見ることはできません。生体マウスのモデル系でも、実際の血管内を流れるがん細胞を見ることのできるような解析はほとんどありません。すなわち、がん細胞が血管内でどのように振る舞うかについてはほとんどわかっていないのです。先に、「鳥類の胚は殻を開けさえすれば簡単に観察できる」と申しました。血管だって肉眼で容易に観察できます。この鳥類胚の血管にがん細胞を移植してやれば、がん細胞の血管の中での挙動が解析できます。我々は鳥類胚を用いて、実際にがん細胞の血管内挙動のイメージングや分子機構の解析を進めています。