PGCが胚体外で生まれることに意義はあるのか

PGCが胚体外で生まれることに意義はあるのか

 皆さんご存知かと思いますが、大人の体の中では、生殖細胞は生殖腺(卵巣や精巣)の中に存在しています。生殖腺は生殖細胞の生存や性質の維持をする役割を持っており、生殖腺は生殖細胞の「ゆりかご」などと例えられます。しかしこれは大人に限った話です。胎児(胚)においては、生殖細胞は始めから生殖腺の中にいるわけではありません。胚発生の時期に最初に現れる生殖細胞は始原生殖細胞と言いますが(英語ではPrimordial germ cell、PGCと呼ばれます)、その生まれる場所は胚の体の中ですらなく、胚体外組織と呼ばれる、なんと体の外側です。体の外から体内の生殖腺まで長距離を移動してやってきます。なぜわざわざそのような面倒臭そうな、そして危険そうなことをするのか。生殖腺が体内にできた後、その中にPGCが作られれば良いことではないかと思ってしまいます。しかし動物はそのような戦略は取っていません。胚体外にPGCが生まれることに大きな意味があるのかもしれませんが、今のところ全くわかっていません。

 その意義があるのであれば知りたいというのが、我々がPGCの研究を進める動機の一つですが、予想されることはいくつかあります。例えば、次世代に強い細胞・遺伝情報を残したいので、「移動」という過酷な状況をPGCに課している(選別説)。あるいは、胚体外に生まれることや移動する過程を経ることが将来生殖細胞として成熟することなどに必要である(経験説)。あるいは、発生中の体内は様々な分化因子などが飛び交い、極めて動的な形態形成が進む「危険な工事現場」のようなものであるから、PGCはそれを回避している(危険回避説)。もしくは、意義はない。発生における段階的な細胞分化の過程で、PGCを発生の後期から作りはじめることが動物はできないのかもしれません。このようなことを妄想しながら実験をしています。