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Naiyou
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研究内容      

葉緑体工学*とイネの葉緑体遺伝子発現制御メカニズム

Ine  葉緑体は植物細胞を最も特徴づけるオルガネラです。光合成や、炭素・窒素・硫黄同化など、多くの代謝経路が葉緑体に存在し、植物の独立栄養を支えていま す。植物細胞の生理的要として、基礎研究の大きな対象である葉緑体ですが、近年の遺伝子組み換え技術の発達と共に、それらの問題点を解決する「葉緑体工 学*」の技術的対象として、応用面でも注目されています。私たちは、主要作物であるイネの葉緑体機能化制御メカニズムの解明を目指して、イネの突然変異株 を研究材料に用いて研究を進めています。

葉緑体の分化と葉緑体遺伝子発現制御
CP_Leaf  葉緑体はその分化状態により形態、機能を大きく変化させ、構成タンパク質の種類も変動します。葉緑体分化のスムーズな進行のためには、核と葉緑体のゲノ ムにコードされたさまざまな遺伝子が、各組織の分化段階に則した協調的・段階的な発現制御を受ける必要があります。たとえば葉緑体分化の初期には、まず葉 緑体DNAの増幅が起こり、次に葉緑体ゲノムにコードされたRNAポリメラーゼ、tRNA、リボゾームなど、転写・翻訳装置の遺伝子が転写され、引き続い て光合成装置の光化学反応系や炭酸同化系の遺伝子群の転写が行われることが分かっています(図2)。しかし、これら遺伝子の発現制御のメカニズムについて は、これまでほとんど明らかにされていません。
私たちは、葉緑体分化制御メカニズムのキープロセスとして、転写装置を中心とした葉緑体遺伝子発現制御に着目し研究を行っています。

 

virescent 変異株
virescent virescentは 温度感受性の変異株で、制限温度(低温)で生育させると葉が白化し、葉緑体はチラコイド内膜を欠いた異常な形態となりクロロフィルはほとんど蓄積しません (図3)。生育温度を許容温度(高温)にシフトさせると、新たに形成される葉は緑葉となりますが、一度白化した葉の表現型は変わりません。このことは葉の 形成初期に、葉緑体分化を不可逆的に決定づけるステージがあることを示しています。 virescent変異株に対し温度シフト法と呼ばれる解析をおこない、葉緑体形成に関与する遺伝子の発現パターンと比較したところ、virescent遺伝子は、葉細胞が分裂を終え孔辺細胞などへの機能的な分化を引き起こす直前のP4とよばれるステージに機能していることがわかりました。このP4ステージにおいては、RNAポリメラーゼ遺伝子rpoなどの葉緑体内の転写・翻訳に関わる葉緑体遺伝子の発現が、光合成関係の遺伝子に先立ち活性化されることがわかっています(図3)。virescent遺伝子はそれらの遺伝子の発現のタイミング決定に関与し、葉緑体内の遺伝子発現装置の構築に重要な役割を持っている可能性があります。現在、virescent変異株の分子レベルでの表現型解析を進めています。また、virescent遺伝子の構造と機能を解析するため、原因遺伝子のクローニングを進めています。現在3つの virescent遺伝子(V1V3)について原因遺伝子の同定をほぼ終了し、その機能解析と葉緑体分化との関連を調べているところです。

*葉緑体工学
 遺伝子組み換え技術により作られる、遺伝子組み換え作物(GM作物)は、生産性の増大や機能付加、農薬などによる環境負荷の低減など、多大な社会的効果 が期待されています。しかし一方で、導入した遺伝子の影響(効果)が必ずしも高くならないこと、他家交配による導入遺伝子の拡散による環境安全性への懸念 など、いくつかの大きな問題をかかえています。今後幅広い作物でGM作物を開発するためには、これらの問題をクリアする新しい技術が要求されますが、その ブレークスルーの可能性をもつのが、葉緑体の機能を利用した技術「葉緑体工学」です。
 葉緑体ゲノムのコピー数は細胞あたり核ゲノムの5,000倍以上であり、葉緑体ゲノムに外来遺伝子を導入することで、従来の核ゲノムへの遺伝子導入植物 に比べ、タンパク質を数十〜数百倍発現させることが期待できます。また、葉緑体ゲノムはほとんどの作物植物で母性遺伝するため、花粉を介した組換え遺伝子 の拡散を原理的・根本的に予防することができます。
 ただ、葉緑体工学の基盤となる葉緑体形質転換技術はタバコ、シロイヌナズナなどで報告されていますが、それほど効率が高くない上、作物植物での成功例は ありません。その大きな原因は、それらの植物において、葉緑体の遺伝子発現制御メカニズムの理解が進んでいないことにあります。私たちは、主要作物であ り、すでに核ゲノムへの遺伝子導入技術が確立しているイネの葉緑体遺伝子発現制御メカニズムをターゲットにして研究を進めています。