生殖細胞はどのように胚内を移動するのか
始原生殖細胞(Primordial Germ Cell; PGC)は、胚体外で生まれ、生殖腺まで長距離を移動します。この「移動する」という現象は多くの動物で共通していますが、その移動ルートは動物によって驚くほど多様です。
例えば、マウスではPGCは腸の上皮や腸間膜を経由して生殖腺へ向かいます。一方、ゼブラフィッシュでは胚内の間充織を移動します。さらに鳥類では、PGCは一度血管内へ侵入し、血流に乗って運ばれた後、再び血管外へ遊出して生殖腺へ向かいます。このような移動様式は、現在知られている脊椎動物の中でも極めてユニークです。
興味深いことに、移動ルートは大きく異なるにもかかわらず、移動に利用される分子や細胞の基本的な振る舞いには動物種を超えた共通性も認められます。
なぜPGCの移動様式はこれほど多様なのでしょうか。
そして、その中で何が動物種を超えて保存されているのでしょうか。
これが私たちの大きな研究テーマの一つです。
この問いに答えるため、私たちは鳥類胚を研究対象としています。鳥類胚では、卵殻を開くだけで発生中の胚を直接観察できるため、生きたままPGCの移動を高い時間・空間分解能で解析することができます。特に、血管への侵入、血流中での移動、血管外への遊出、さらに腸間膜内を経て生殖腺へ到達するまでの一連の過程を、生体内で直接観察できることは鳥類胚ならではの大きな利点です。
これまで私たちは、PGCが血管内で捕捉される仕組み、血管外へ遊出する分子機構、さらに異なる組織環境に応じて移動様式を切り替える仕組みを明らかにしてきました。近年では、細胞が周囲の物理環境をどのように感知し、それに応じて移動様式を変化させるのかというメカノバイオロジーにも研究を広げています。
PGCは、おそらく発生過程で最も長距離を移動する細胞の一つです。しかも、その長い旅路の途中でも、生殖細胞としての性質を失うことはありません。上皮、血管、間充織といった性質の異なる環境を、まるで障害物競走のように乗り越えながら、生殖腺という唯一の目的地を目指します。
私たちは、この壮大な旅路を理解することが、生殖細胞の本質を理解するだけでなく、細胞が異なる環境に適応しながら移動する普遍的な原理の理解につながると考えています。そして、PGCの移動は、生殖細胞だけの特殊な現象ではありません。異なる環境を横断しながら目的地へ到達するという普遍的な細胞移動のモデルであり、その理解は発生生物学だけでなく、免疫学やがん生物学にも新たな視点を与えると期待しています。
