PGCの移動機構

PGCの移動機構

 先にPGCは胚体外で生まれて体内の生殖腺まで移動するとお話ししました。ここではPGCの移動現象やその機構について紹介します。まずは一般的な話から始めますが、ことPGCの移動に関しては共通性も認められますが、非常に多様性に富むことがわかっていただけると思います。

 おそらくどの動物のPGCも胚体外あるいは胚の辺縁に生じます。そして、最終ゴールは生殖腺(生殖巣)であることも共通しています。しかし、PGCがとるルート(胚体外から生殖腺まで)は動物によって大きく異なります。動物によって発生様式や体制は異なりますから多少は異なっても良いのかもしれませんが、それにしても多様です。例えばマウス胚ではPGCはエピブラスト後端(胚体の後ろ側の辺縁)に生じたのち、腸の上皮細胞中を前側に移動し、腸間膜に入り生殖腺まで移動します。小型魚類の場合は初期胚の異なる4箇所に生じたPGCが途中で合流し、間充織中を生殖腺まで移動する、いったように大きく異なります。その中で共通点を挙げるとすると、移動中のPGCは上皮細胞との親和性が高い(移動の足場に利用している?)、内臓(内胚葉)と相互作用している、脊椎動物間では移動に用いるガイダンス因子が共通であることがあります。

 次に我々の研究の話をします。我々は鳥類の胚を用いてPGCの動きを研究しています。鳥類の生殖細胞はなんと血管内を移動します。これはおそらく鳥類全般と一部の爬虫類にのみ認められる移動様式です(おそらく恐竜もこの様式だった?)。これもPGC移動の多様性を示すものといえます。現在PGCがどのように血管の中に侵入し、遊出するのかについて調べています。幸い、鳥類の胚は生きたまま高度な観察が可能な動物ですので(卵の殻を丁寧に割るだけで胚が見えるというわけです)、血管の中を動くPGCが容易にみて取れます。

 総じて、PGCの移動ルートが動物によってどうしてこんなにも異なるのかは大変興味のある問題ですし、移動にみられる共通性の中には根源的に重要な事柄が潜んでいると思われます。さらに、一つの動物に注目してPGCの移動過程を見た場合、例えば鳥類胚では胚盤葉間充織→血管→腸間膜間充織→生殖腺とそれぞれ大きく異なる環境を辿ります。あたかも障害物競走のように。また、私の知る限り、PGCは発生中に最も長距離を移動する細胞だと思います。細胞移動は発生生物学や免疫、がん細胞学にとって極めて重要な研究対象ですが、PGCはこのような意味でとても魅力的な研究対象です。もちろん、このPGCの移動がうまいこと完徹しないとその個体は次世代を残せなくなってしまうわけですから、PGC移動研究は極めて重要です。