生殖細胞はどのように生殖細胞としての性質を維持するのか
生殖細胞の最大の使命は、次世代へ遺伝情報を受け継ぐことです。そのためには、将来精子や卵へ分化できる能力を維持し、自ら増殖し、最終的に受精を経て新しい個体を生み出す能力を保ち続けなければなりません。
しかし、そのような能力は生まれつき永続的に備わっているわけではありません。発生中の胚では、周囲の細胞は次々と神経、筋肉、血液など様々な体細胞へ分化していきます。その中で、なぜ生殖細胞だけが体細胞へ分化せず、生殖細胞としての運命を維持できるのでしょうか。
この問いは、生殖細胞研究における最も本質的な問題の一つです。
成熟した個体では、生殖細胞は卵巣や精巣という生殖腺の中で維持されています。生殖腺は、生殖細胞にとって「ゆりかご」のような環境であり、様々なシグナルを介して生殖細胞性を支えています。
一方、発生中のPGCは、生殖腺が形成される前に胚体外で生まれ、その後、生殖腺へ向かって長距離を移動します。つまり、生殖細胞は「ゆりかご」の外にいる期間、自らの性質を維持し続けなければなりません。
移動中のPGCは、どのようにして生殖細胞としての運命を守っているのでしょうか。
私たちは、この問いに対して、細胞外シグナル、転写制御、エピゲノム制御だけでなく、細胞の形態や接着状態、さらには細胞が置かれた物理環境にも着目して研究を進めています。近年では、「生殖細胞性は特定の遺伝子だけではなく、細胞の物理状態そのものによって支えられているのではないか」という新しい視点から研究を展開しています。
生殖細胞がどのようにして自身の運命を守り続けるのかを理解することは、生殖細胞そのものを理解するだけでなく、幹細胞の未分化性維持や細胞運命決定の普遍的な原理を明らかにすることにもつながると考えています。
