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神経回路における情報処理のメカニズムresearch 1

感覚情報の統合と学習の制御に関わる新しい分子メカニズム

 もっとも単純な情報処理の一つである”2つの入力から1つの出力”という情報処理に焦点を当てて研究をしています。C.elegansは、銅イオンなどの重金属イオンから忌避し、ジアセチルなど の匂い物質に対して化学走性を示し寄っていきます。私たちが開発した情報の統合を測定するパラダイムにおいては、ジアセチルに寄っていくためには、銅イオンのバリアーをこえる必要があります。野生型C.elegansにおいては、ジアセチルと銅イオンのそれぞれの濃度に応じて、銅イオンのバリアーを越えて、ジアセチルへ寄っていく虫の割合が変化します。ジアセチルと銅イオンとは異なった感覚神経細胞で受容されるので、これらの感覚情報は神経回路上でお互いに抑制しあうという情報処理を受けていることがわかります。また、神経回路図から、この情報処理には10数対からなる神経細胞が関わっていると考えられます。


 この感覚情報の統合の測定パラダイムにおいて、異常を示す変異体、hen-1は、NaClと飢餓、温度と飢餓で条件付けしたのちの連合学習にも異常を示すことから、記憶の形成過程における感覚情報の統合にも異常があるらしいことがわかった。また、このHEN-1は、成熟した神経回路で分泌され、細胞非自律的に機能していることから、神経機能を修飾するシグナル分子であると考えています。現在、このHEN-1の受容体の探索や、HEN-1が神経機能に及ぼす影響などについて解析を進めています




神経活動のイメージング

 C. elegansは、遺伝学的な解析や行動の測定などには、大変便利なモデル生物ですが、電気生理学などを用いて神経活動を測定することは、これまでほとんどできませんでした。そこで、体が透明で遺伝子導入が容易であることなどの利点を生かして、Ca2+感受性GFPプローブなどを用いた生きたままのC. elegansにおける神経活動の可視化を試みています。この技術を用いて、野生型と変異体の神経活動の比較することなどから、情報処理の神経回路レベルのメカニズムを明らかにしたいと考えています。


 私たちの研究室では、現在、C. elegansにおける神経活動の様子を解析するために、Ca2+感受性GFPであるYC3.60を用いたin vivoイメージングを確立しています。


右の図は、対物レンズを高速に動かすことができる高速共焦点顕微鏡の外観。左下の図は、得られた画像の解析方法。右下の図は、多数の中枢神経系のニューロンにおいて、神経活動を測定した画像。赤いところは、活動している神経細胞を表しています。




記憶を忘れるメカニズム

 学習は、記憶の形成、保持、想起、消去など様々な過程から成り立っている複雑なシステムです。私達の研究室ではは、線虫C. elegansを用いて、短期記憶の消去の分子機構を明らかにする目的で、「記憶を忘れない」変異体の解析を開始しました。ジアセチルに対する応答や順応には異常はないが、順応からの回復が見られない変異体を単離しました。その解析から、ある感覚ニューロンから忘却を促すシグナルがでていることが明らかになりました。





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