研究内容


 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の増加と、気候の温暖化は今後も続くと考えられており、生態系と食料生産への影響が懸念されています。CO2を光合成の基質として取り込む植物は炭素循環の主役であり、また作物としてその成長は人間の生活に直接影響することから、環境変化に対する植物の応答メカニズムを明らかにすることが急務となっています。本研究グループでは、主要なモデル植物の一つであり、重要作物でもあるイネを主研究材料として「高等植物の環境適応システムの最適化システムの探索」を主研究テーマに、以下のようなプロジェクトを進めています。

①温暖化と高CO2環境に対応した高効率植物の開発

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 気孔は植物のガス交換のほとんどを担っており、光合成に必要なCO2の吸収と、水や養分の取り込みに必須の水蒸散の調節機能は、植物の成長制御の根幹となっています。一方、気孔開口に際しては、CO2吸収と、乾燥ストレスの原因となる水蒸散は、トレードオフの関係となるため、生育環境の変化に即応した精密な気孔制御が必要となりますが、そのしくみの詳細はわかっていません。本研究では、ジーンターゲティングの手法により、気孔制御因子の遺伝子構造を直接改変した形質転換イネを作製し、その生理的な影響を調べます。そのことにより、気孔閉鎖を介したCO2吸収と水蒸散のバランス制御機構を明らかにし、高CO2環境下においても高い光合成能と乾燥耐性を両立できる、気孔開度の最適化システムを探索します。

②植物の栄養環境応答を制御する新規因子の探索

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高等植物において、CO2は葉内の気孔から吸収された後、光合成による同化と、根から吸収された窒素の代謝との相互作用、生体分子構成成分への配分を経て、成長と形態形成へ反映されます。これまでこれらの素過程に関わる多くの因子が同定されていますが、植物の成長と環境変化に対応する制御機構や、代謝の状態を植物の成長や器官形成へフィードバックするメカニズムには不明な点が多く、未知の鍵制御因子が多数存在すると考えられます。本研究では、遺伝子間隙やノンコーディングRNA上に存在する短いアミノ酸をコードするshort open reading frames (sORFs)をターゲットにして、新規の代謝制御機構を探索します。モデル植物の形質転換体を用いて、これらのsORFの中から、炭素や窒素などの栄養環境の変化に応じた体内の炭素・窒素バランシングや組織間情報伝達に関わるものをつきとめます。

③環境センサーとしての葉緑体機能制御メカニズム

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植物細胞に特有の細胞内オルガネラである葉緑体(色素体)は、一般的には光合成をする器官として捉えられることが多いですが、一方で、植物細胞における最大の環境センサー器官であり、光やCO2、温度など環境因子の変化を感知し、代謝産物の出入りを通じて器官形成や恒常性維持の調節機構に反映する役割を持ちます。それらの機能は環境変化や器官分化に応じて大きく変化しますが、その調節には、葉緑体ゲノムにコードされた遺伝子の発現制御が重要な役割を持つと考えられています。本研究テーマでは、これまでにイネの温度感受性変異株から単離した原因遺伝子の機能解析を通じて、特にイネの幼苗期の低温耐性メカニズムと、葉緑体機能の関連について調べています。

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