研究概要

  

  iPS細胞の研究は世界の激しい競争で進められています。これはウイスコンシン大学のiPS細胞の研究施設の建設中の写真(2008年夏に訪問した時のもの)です。細胞外にある糖鎖や関連分子を変化させることでiPS細胞を作り出せないでしょうか。次の進歩のためには革新的な発想による実験研究を支援するシステムが不可欠です。

モデル生物 線虫C. elegansを利用した糖鎖生物学の研究
      ― 生物学の革命をめざして!―

1. 糖鎖と細胞分裂のかかわりの研究

哺乳類でも線虫でも、初期胚の細胞分裂には有名な糖鎖であるコンドロイチン が必須であることを私達が世界で初めて明らかにしました(Nature 2003)。コンドロイチンによる細胞分裂の制御の分子メカニズムの解明、GPIアンカー型蛋白質やN型糖鎖がいかに有糸分裂や減数分裂を制御しているかを解き明かす最新の研究を展開しています。

2. 糖鎖と病気の研究
   
糖鎖は病気の原因に深く関わっています。私達はモデル生物C. elegansを利用して、様々な病気の解明と薬剤の開発を目指して研究を行っています。現在の研究 テーマの一つは先天性グリコシル化異常症Congenital Disorders of Glycosylation (CDG)の原因遺伝子ALG7 などの線虫を用いた解析です。これらの遺伝子の機能阻害を行うと線虫でもヒトと同じような異常が引きおこされることがわかりました。このモデルシステムを使えばCDGの研究の突破口が得られると期待しています。さらにO157毒素の作用の分子メカニズムの解明、遺伝子組み換え作物で使われている毒素Crystalトキシンの作用機作の研究、細菌感染を防御するガレクチンの研究、そして寿命を支配する糖脂質合成酵素の研究なども行っています。医学や食の安全に役立つ糖鎖生物学を心がけながら、プロテオーム解析やDNAマイクロアレイ・RNA-Seqなどを駆使した研究を展開しています。

3. 糖鎖の改変による細胞分化制御の研究

細胞表面の糖鎖は外部からもっとも最初に接近することができる細胞膜のフロンティアです。この細胞膜フロンティア領域を外部から改変したりリモデリングすることで、細胞の分化運命や細胞分裂を制御できる可能性を示したのが私達の研究です。線虫では神経再生がよくおこります。神経再生を支配しているコンドロイチンの役割やその他の遺伝子の働きの解明も大きなテーマです。幹細胞のマーカーである糖鎖や血液型B型、A型糖鎖など多彩な細胞表面糖鎖をこまやかに制御することで、癌細胞を分化転換させて治療に役立てたり、分化した細胞をiPS細胞にしたりするなど、細胞の分化と増殖を自在に操ることができる技術、「細胞分裂細胞分化制御工学」の確立を目指して研究をすすめています。

4. 糖鎖の硫酸化やアセチル化の役割の研究

神経糖鎖生物学ではヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸の硫酸化パターンが硫酸化コードとして機能している可能性が提唱され盛んに研究されています。私達は線虫を用いて全ての硫酸化関連遺伝子の機能の検討を行い、硫酸化の細胞分化、組織・器官形成での重要性を明らかにしました。また並行して糖鎖のアセチル化についても研究を行っており、アセチルCoAトランスポーターの機能解析を通じてアセチル化が生命において果たす本質的役割を解明しようとしています。

5. GPIアンカー型蛋白質の研究

GPIアンカー型蛋白質の合成が線虫の配偶子幹細胞の維持に必須であり、GPIアンカー型蛋白質の合成なしには、卵母細胞が形成されず、卵ができないことを私達が世界で初めて明らかにしました。これは生殖細胞の形成機構の解明に大きく寄与するとともに、不妊の研究などに新しい視点をもちこむ研究として高く評価されています。たくさんあるGPIアンカー型蛋白質のどれが生殖細胞の形成に必須であるかの研究を展開しています。

6. 網羅的な糖鎖遺伝子破壊結果の解析

私達のCRESTプロジェクトでは、ヒトの糖鎖遺伝子のオーソログである線虫遺伝子すべてについてRNAiによる遺伝子発現のノックダウン、主要な糖鎖遺伝子の遺伝子ノックアウトによる解析を済ませました。この成果は世界初のモデル生物の糖鎖遺伝子データベースであるC.elegans GlycoGene Database (CGGDB)として公開をすませましたが,その成果を元にしたより深い分子メカニズムの解明を目指した研究を実施しています。

7. 糖鎖遺伝子機能のプロテオーム解析とマイクロアレイ解析による解明

糖鎖遺伝子の機能を明らかにするのには、遺伝子発現の変動を把握するためのDNAマイクロアレイによる解析やプロテオーム解析が最適です。DHAの産生に有用とされるラビリンチュラのプロテオーム解析の他、病原性大腸菌の毒素のプロテオーム解析なども農学研究院や医学研究院との共同研究で実施しています。こうした解析で糖鎖遺伝子のノックダウンやノックアウトにともなう遺伝子変動を明らかにすることで、有用物質の生産や食の安全、医学研究に大きく寄与することができます。さらに糖鎖遺伝子ネットワークの全貌も明らかにできると考えています。糖鎖が果たす生命の根幹にかかわる機能を解明すべく、バイオインフォマティクスを利用したネットワーク解析も含めて精力的に研究をすすめています。

糖鎖と細胞分裂の関わりや、糖鎖遺伝子ノックアウトプロジェクトの概要については以下のサイエンスチャンネルのテレビ番組にて野村が解説しておりますのでご参照下さい。

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