山脇兆史の研究内容

Mantis
昆虫(カマキリ)を用いて、行動発現や運動制御の仕組みを神経レベルで調べています。

行動の不思議

私たちが普段何気なく行っている行動は、実は複雑な情報処理の上で成り立っています。例えばコップで水を飲むだけでも、多数の筋肉を上手く協同させて制御する必要があり、簡単ではありません。(幼児や酔っぱらいがよく水をこぼすことが、その証拠です。)

昆虫においても、複雑に制御された行動がみられます。カマキリによる餌捕獲はその一つです。カマキリは視覚で餌の位置を知り、その場所へ鎌(前肢)を繰り出します。感覚情報に応じて適切な運動指令を生成する機構は「感覚運動変換」と呼ばれますが、その仕組みはよくわかっていません。カマキリ神経系の構造や機能を調べることで、感覚運動変換と運動制御を担う神経回路の解明を目指しています。

なぜ昆虫を研究するのか?

昆虫には以下のような利点や面白さがあります。

神経系が比較的単純

昆虫の脳のニューロン数は約100万と言われています。これは脊椎動物の脳に比べてはるかに少ない数です。そのため、特定の行動に限定すれば、その神経回路全体の理解が期待できます。

単一ニューロンの同定が可能

昆虫のニューロンのうち大型のものは、形態や機能から同定できます。言い換えれば、異なる個体において、神経系の同じ場所に同じ形で同じ機能をもつニューロンを見つけることができます。これは、神経回路を構成するニューロンを一つずつ調べていく際にとても有用です。

行動の複雑さ

昆虫は、脊椎動物に劣らない複雑な行動をみせます。ミツバチはダンス言語で蜜の在処を仲間に伝えます。サバクアリは餌を求めて砂漠を探索し、何の目印がなくても迷うことなく巣に戻ります。これらの驚異的な行動を可能にする昆虫の脳・神経系は、どのような仕組みになっているのでしょうか?

運動制御の仕組みの解明を目指して

Xray image
3D model
前胸神経節の三次元モデル
EMG recording

前肢運動の制御機構を解明するには、まずカマキリの前肢の筋肉系の構造を理解する必要があります。そして、前肢の筋収縮を引き起こす運動ニューロンや運動制御の神経回路は胸部神経節にあるので、胸部神経節の神経構造の理解も必要です。さらに、運動中の筋肉やニューロンの活動を記録することが出来れば、運動制御の神経回路の解明に大いに役立ちます。これらの研究を進めることで、カマキリ前肢の運動制御の仕組みの解明を目指しています。

研究室配属について

研究室配属や大学院への進学に関して、よく聞かれる質問とその返答をまとめました。

この研究室は、どんな学生に向いているでしょうか?

私(山脇)個人は、動物の行動を飽きずにいつまでも見ていられるタイプの人間です。ですので、同様に動物の行動を見るのが好きな人は研究を楽しむことができるでしょう。また、上手く染まった神経構造の画像に美しさを感じる人も、研究に向いています。

それまであまり勉強してこなかったとしても、興味さえあれば知識や技術はいくらでも学ぶことができます。なによりも、動物の行動を成り立たせている神経系の巧妙な仕組みに興味を持つ学生を歓迎します。

解剖の技術は必要ですか?不器用でも大丈夫でしょうか?

大丈夫です。神経生理学的手法を用いた研究をする場合には、手先の器用さが要求されますが、全ての研究テーマにおいて必要なわけではありません。例えば行動観察実験では、ひたすら行動を録画して解析することで研究が成り立ちます。その結果だけで卒業研究論文や修士論文を書くことは、十分可能です。

もちろん、手先の器用さに自信がある人も大歓迎です。その特技を存分に活かして下さい。

研究にコンピュータは重要ですか?

はい。実験結果の解析や論文の執筆にコンピュータは欠かせません。それは、どの研究室に所属しても同じことでしょう。ただ、複雑な統計処理やシミュレーションは通常行わないので、普通にWordやExcelなどを使うことができれば、それで十分です。

逆にコンピュータが得意な人には、コンピュータを活用する研究テーマも用意できます。希望者には、プログラミングを教えます。

虫が怖くて触れなくても、大丈夫でしょうか?

大丈夫…な場合もあります。まず、食わず嫌いならぬ“触らず嫌い”の可能性があります。触ってみたら案外大丈夫かもしれません。また、人間は慣れる生き物です。最初は怖かったものが、日常的に接していると平気になることはよくあります。

一般に、私たちが恐怖を感じるのは、その対象をよく知らないためです。例えば、交通事故の例からわかるように、車はひとたび暴走すれば大変危険な存在です。しかし、車自体に恐怖を感じる人はあまりいません。それは車の仕組みを知っており、どんな状態の車が危険かを理解しているからです。よく見知っている危険に対して、私たちは恐怖を感じるのではなく、冷静に警戒して対処します。

昆虫のことも、よく知れば知るほど怖くなくなり、むしろ愛着が湧いてくる…かもしれません。

研究室選びに迷っています。何を決め手にすべきでしょうか?

純粋に研究テーマで選ぶのが本来のあり方ですが、相性というものも考慮することを勧めます。例えば、長時間野外で動物の行動を調査することに苦痛を感じる人は、生態学の研究に向いていないでしょう。一方、手芸のような細かい手作業が嫌いな人は、神経生理学の実験には向いていません。

研究手法との相性だけでなく、人との相性も大事な要素です。卒業研究や大学院の指導は、教員によって一対一で行われます。弟子入りするようなものです。師匠には、信頼のおける人物を選ぶべきなのは言うまでもありません。しかし、人格的に問題がなくても、なんとなく馬があわない、ということがあります。性格の長所と短所は表裏一体です。例えば、面倒見がいいということは、細かくあれこれ指図されることを意味します。おおらかで細かい事を気にしない人は、やることが大雑把でいい加減です。前者の方が性に合う人もいれば、後者のほうが居心地がよい人もいます。

相性を知るには、実際に体験してみるしかありません。研究室訪問やインターン制度を通して、自分にあうかどうかを慎重に吟味してください。