九州大学大学院

生体高分子学研究室

Protein Science and Cellular Biochemistry

腸内の共生細菌に対する免疫寛容の分子機構の解明

概要

腸内の共生細菌は、宿主の免疫反応から免れて増殖し、腸管の恒常性に寄与するとともに、ビタミンなどの必須栄養源の供給を行っています。これまで、腸内共生細菌に対する宿主の免疫寛容の分子機構は不明のままでした。当研究室では、キイロショウジョウバエを用いて、タンパク質同士を糊付けする酵素「トランスグルタミナーゼ」が、共生細菌の抗原に対して免疫応答する特定の情報伝達因子を糊付けして機能抑制することで、免疫寛容となっていることを明らかにしました。

背景

タンパク質分子の糊付け反応は、皮膚の形成(角質化)や血液凝固など、生物にとって必須の反応です。この架橋反応は「トランスグルタミナーゼ」という酵素が触媒しており、トランスグルタミナーゼは、哺乳類から細菌に至るまで様々な生物に存在している必須の酵素です。当研究グループは、キイロショウジョウバエの遺伝子操作技術を用いて、トランスグルタミナーゼの機能解析を推進してきましたが、今回、トランスグルタミナーゼが腸管における免疫応答の抑制機構を担っていることを発見しました。

内容

キイロショウジョウバエにおいては、10~50種、計500万個、ヒトになると~500種、計100兆個を超える共生細菌が常在しています。腸内の共生細菌叢は、腸管の免疫系により管理されていますが、共生細菌に対する宿主の免疫寛容の分子機構は、謎に包まれたままでした。 研究グループは、キイロショウジョウバエをモデル動物として、トランスグルタミナーゼの機能を阻害したところ、1ヶ月内でほとんどが死んでしまうことが判明しました。詳細な解析の結果、トランスグルタミナーゼは、共生細菌の抗原に免疫応答する情報伝達因子を糊付けして不活性化することにより、宿主の免疫寛容性を誘導していたのです。上述のハエの短命の原因は、免疫寛容性を失った腸管から、過剰に作られた宿主の抗菌性タンパク質により共生細菌の多くが殺菌され、正常な腸内細菌叢のバランスを崩してしまったためであると推定されました。

効果・今後の展開

キイロショウジョウバエを使った腸管免疫の研究は、哺乳類と比べて腸内の細菌種が少ないこと、実験動物として取り扱いやすいことから、2008年頃より、にわかに研究推進の拍車がかかり始めました。腸管は口から感染してきた細菌と常に接しており、常時危険にさらされているため、免疫反応の最重要の場と言っても過言ではありません。しかし、腸管免疫の全貌はいまだに分かっておらず、特に腸内共生細菌の維持機構についてはほとんど未解明の分野です。今回の成果、すなわち「トランスグルタミナーゼが腸管免疫を調節している」という新しい概念が、哺乳類の腸管免疫研究においても新たな研究の引き金になることが期待されます。

正常な腸管
図1:正常の状態では、トランスグルタミナーゼは、腸内の抗菌性タンパク質の産生量を調節することで腸内細菌叢を管理している。
免疫寛容系が破綻した腸管
図2:トランスグルタミナーゼの機能阻害(RNAiによるトランスグルタミナーゼmRNAのノックダウン)による腸内細菌叢のバランスの破壊が宿主を短命にする。
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