九州大学大学院

生体高分子学研究室

Protein Science and Cellular Biochemistry

その9 幼稚園や保育園で学んだ真の知恵

小高い山の中腹にある自宅から松林をくぐり抜けて、最寄りのJR駅に自転車で通っている。四か所の駐輪場のうち、駅から最も離れた施設を利用している。駅に近接の施設は、午前8時前後まではボランティアの方々により整理整頓されてはいるが、午前9時を過ぎると不心得者によって歩道まで溢れてしまう。若者や学生さんたちの仕業と思われがちであるが、実は人生の節目で多くの知恵を授かったはずの大人たちが下手人である。「子は親の鏡」の典型といえよう。

UWに留学していたころ、「All I really need to know I learned in kindergarten(Robert Fulghum著)」(池央耿訳:人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ 河出書房新社)という人生を生き抜くための知恵に関する本に出会った。1)皆で分け合うこと。2)ずるしないこと。3)他人を打たないこと。4)借りたものは、もとの場所に返すこと。5)ちらかしたら、後片づけすること。6)他人のものに手を出さないこと。7)他人を傷つけたら、謝ること。8)食事の前には手を洗うこと。9)トイレの後は、水を流すこと。10)焼きたてのクッキーと冷たい牛乳は体に良いこと。11)毎日、少し勉強し、少し考え、少し絵を描き、歌い、踊り、そして少し働くこと。12)毎日、昼寝をすること。13)外出中は車に気をつけ、手をつないで離れないようにすること。14)不思議だと思う気持ちを大切にすること。

私も保育園の花組や雪組だったころ、ゴトウ先生からこれらの知恵を学んだ。貰ったおやつは皆で分け合って食べること。ずるをせず、暴力をふるわず、嘘をつかないこと。友達から借りたおもちゃは、必ず返すこと。棚から取り出した遊び道具は、もとの場所に片付けること。他人に迷惑を掛けないこと。喧嘩をしたら仲直りすること。トンボのメガネを歌い、ぶんぶく茶釜を踊り、花咲かじいさんの絵本を聴き、両親の似顔絵を描いて、昼寝をした。道路は右側を手をつないで歩き、ご飯の前は手を洗って、いだだきますと感謝して食べた。

現在、生涯学習の一環として、大学院への「社会人入学」が推し進められているが、頭の硬い大人のままでは、時間の無駄使いに過ぎず、幼稚園や保育園で真の知恵に関する再教育を受けた方が、より効果的ではないかと考えたくなる。人生に迷い、自身の向上を図ろうとするなら、まずは幼稚園や保育園で学んだことを思い出そう。幼稚園や保育園で人生の師に出会わなかった大人たちは、幼いわが子から教わろう。人生を生き抜く知恵は、大学院の講義室や研究室にはなく、幼稚園や保育園の砂場に存在するのであるから。

2012年1月4日
Prev 目次 Next
ページの上部に移動